「PIXAR」は経営や戦略を理解したいビジネス書としておすすめで、さらにAppleファンの人はジョブズのあまり語られていないエピソードもあって読み応え十分です。

「PIXAR」は、経営、戦略、財務、といった経営層の考え方や実践を追体験したい人におすすめのビジネス書です。自分自身規模こそまったく異なりますが、いち経営者として共感する部分が多くありました。「PIXAR」のレビューします。あと、ジョブズのアップル外でのエピソードも多く、Appleファンにもおすすめのビジネス書です。

ビジネス書「PIXAR<ピクサー>」とは

ピクサー社は、トイ・ストーリーなどの制作で有名なCGアニメーション制作スタジオです。現在はディズニーの傘下ですが、かつては独立系アニメーションスタジオでした。

本書では、その成長の経緯などを、最高財務責任者であるローレンス・レビー氏の視点で、その成功までがつづられています。

翻訳者は、井口耕二さんでIT技術にも明るく数々のビジネス書をヒットさせています。読んだあとに「ジョブズ本もこの人だったのね」と気づいて、その面白さにみょうに納得してしまいました。あらすじはこちらです。

ジョブズが自腹で支えていた赤字時代、『トイ・ストーリー』のメガヒット、株式公開、ディズニーによる買収・・・。小さなクリエイティブ集団を、ディズニーに並ぶ一大アニメーションスタジオに育てあげたファイナンス戦略!ビジネス書ではありますが、著者の人間性の魅力あふれる、血の通った真実の物語。

PIXAR ピクサー ~世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話 | ローレンス・レビー, 井口耕二

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このレビューを書いている人の立ち位置

さて、本書をレビューするわたしですが、PIXAR社が一躍有名になったトイ・ストーリーをリアタイでみた世代です。

Google Play ブックスの読み上げ機能

仕事でCGを教えることがあり、ピクサーの背景はある程度知っている状態でよみはじめました。しかし、Appleのジョブズのあまり語られていないエピソードがけっこうたくさんあって、とてもおもしろかったです。

どういう人におすすめか

  • スティーブ・ジョブズが好き、ジョブズ本は興味の範疇の人
  • 会社経営のダイナミズムといったノンフィクションが好きな人
  • トイ・ストーリーなどピクサー映画のファン
  • 会社経営や財務戦略について知りたい人
  • 職場におけるパワープレイヤーとの関わり方に悩む人
  • 一人の職業人の生き方に興味のある人
  • 会社でクリエイティブ職の人にかかわる方、クリエイターのかた

いろいろな切り口で楽しめる良書です。レビューを読むにあたって、以下の主な登場人物をとりあえず頭に入れてお読みくださる理解しやすいと思います。以後、読みやすさ重視で氏など敬称略します。

会社経営の財務や戦略について興味がないという方は、ジョブズ氏の復活劇として、また、その片腕であるローレンス氏の苦悩や成功ストーリーといった、ノンフィクションとして読まれると、面白く読めるかと思います。

  • ローレンス・レビー:最高財務責任者、ジョブズに呼ばれピクサーに来る。
  • スティーブ・ジョブズ:当時は元アップルCEOで、ピクサーのオーナー。赤字時代から何千万もの投資をしピクサーを支えてきた。
  • ピクサー社:世界初のコンピューター長編アニメを制作した会社、CG技術とクリエイターが同居する企業。
  • ディズニー社:ピクサー社と契約(これが物語の重要部分にもなる)をしており制作などの資金投資をしている。

「PIXAR」ビジネス書レビュー

スティーブジョブズの新たな一面

Disney California Adventure
Photo:license by rollercoasterphilosophy

ローレンスとジョブズのやりとりが小気味よく面白い

本書の翻訳者は他のジョブズ本も翻訳しています(講談社「スティーブ・ジョブズ Ⅰ・Ⅱ」)。その作者が、あとがきで「伝記などで語られるジョブズとかなり違う」と書くほど、あまり知られていないエピソードが豊富でひきこまれます。

著者のローレンスは、ジョブズの片腕として、立ち回ります。そのやりとりがとても生々しいです。

「んなこたないさ。」むっとした雰囲気が伝わってくる。(第9章)
「わかった、やってみろ」ちょっと投げやりな返事が返ってきた。(第13章)

本文に適度にはさまれる、ローレンスとジョブズの会話。そして前述のようなきたんのない率直なものいいでふだんのままの飾らないジョブズをつづっています。

私は、ジョブズというと、カリスマ的な存在でパワープレイヤーという印象でした。しかし、ジョブズとのこうした歯切れの良い、小気味よいやりとりが非常に面白い。ジョブズってこんなに話のわかる人だったっけ?と身近に感じてしまいます。ジョブズ本として読んでもほんとうに面白いです。

わたしはかつてブラック企業に勤めたことがあります。たしかにカリスマトップと、うまくやりあってる人の対話はこんな感じでした。あ~そうそう、とうなづく箇所がたくさん。こうした職場関係という視点でも読めるのは本書の魅力の一つです。

パワープレイヤーとのコミュニケーションやチーム作り、議論の仕方など、ビジネス書としてもとても参考になります(私は偶然にも、実際すぐに会議で役立ちました)。

ローレンスの熱いエピソードに涙した

しかし、そんな紳士なローレンスが一度だけ粘るエピソードがあります。映画のエンドロールに、制作には直接かかわっていない財務や人事や総務などのスタッフも載せたい、とディズニーに懇願するのです。

アニメーション制作は、スタッフが集まり撮影が終わると解散してしまう実写映画と異なり、常にアニメーションスタジオがあり制作が進められていく、そんな彼らもエンドロールに載せるべきだと主張します。

しかし、歴史や伝統、慣習の多いハリウッド映画業界ではありえないと、つっぱねられます。実際、それくらいエンドロールは「実績としての価値」があるのだそうです、知りませんでした。

ローレンスは食い下がります。そして、あるときディズニーから提案があります。ピクサー役員を載せないのであれば別な形でスクリーンに載せることはできる、と。

ピクサー役員のなかで私だけ、名前がスクリーンに登場することなく終わってしまうわけだ。部下は全員登場するのに、正直なところちくりと来るものがあった。1回だけでもいいから、自分の名前が登場したらどんなにいいだろう。家族は大喜びしてくれるはずだ。でもそうはならない・・・。

ローレンスも多くの時間と情熱をピクサーに注いでいることは明らかです。その彼が下した判断とは・・・。胸が熱くなる言い方にも注目です(ほんと翻訳者の人のセンスにも脱帽です)。わたしはここで涙してしまいました。ぜひ、みなさんが読んで確かめてください。

これ以外にも、ピクサーとディズニーのロゴの大きさなど、すべてのデザインや作り込みに、契約の縛りや意味があることがわかり、店舗やDVDジャケットなどを見てみたくなること間違いなしです。

企業が成長する裏には情熱や愛がある

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Photo:license by miguel_discart_vrac_3

いくら技術が高くとも企業は成長できるわけではない

企業の成長についてとてもわかりやすく書かれていて、とても勉強になります。財務というアプローチがこれほどまでに、成長に影響するのかと。実例からとてもすんなり理解できます。

本書は大きくわけて3つの章立てがされています。ピンチ→成功→プロローグ、というとても痛快なコンテキストです。

章の中にも細かな紆余曲折が織り込まれ、とくに成長フェーズの第2章では、次はどうなるんだ?おおーーーやった!そうきたか!など、読んでいるこちらも思わず声が出てしまう展開が盛りだくさんです。

  • まず、ピクサー社の悲惨な現状をローレンスが解明していく第1章
  • その逆境から光明を見つけ、ジョブズとともに進め成功していく第2章
  • 成功ののちその熱狂を収束=ディズニーへ買収完了を進めていく第3章

第1章などは、うーん契約ってほんと難しいな、ここまで決めるのか・・・と。まずは選べる選択肢を列挙して、とどんどんと逆境が可視化されていく、そのシーンの連続に、ビジネスの厳しさを垣間見れます。そして勉強になります。ほんと契約って大事なのだなと。

逆境のなかで気づいたピクサーへの愛情

こんなエピソードがあります。ローレンスがピクサーの難題を次々と発見し八方ふさがりになった頃、彼は骨折をし数日間入院をしまいます。

そのころ、自分の気持ちが変わっていることに私は気づいた。ピクサーに来て約3ヶ月、その将来性にめいり、転職するべきではなかったのかもとまで思っていたというのに、10日休んだだけで、出社を心待ちにするようになっていたのだ。状況はなにも変わっていない。足がかりはないままだ。だが、気持ちは変わった。

彼はピクサーに来た頃、アニメーションやエンターテインメント、ハリウッドなどをまったく知りませんでした。しかし、社員など現場スタッフとふれあい、ひっしに勉強をし、課題を丁寧に洗い出していく、その過程で彼は徐々にピクサーの素晴らしさ、クリエイターの誇りや情熱、テクノロジーの将来性に感化されていくのです。彼自身の変化も本書では丁寧に描かれており、いちビジネスマンの成長物語としても読み応えがあります。

そして、このとき勉強したある本が、後半に思わぬ影響を与えます。ノンフィクションではないので伏線回収ではないのですが、その華麗なまでのつながりに、おお!ここでそう来たかと、夜に一人声を上げてしまいました。

いやはや、ほんと、頑張ってる人には女神が微笑んでくれるものなのですね。

成長を目指しとにかく前へ進む


Photo:license by zihfong

成長するための方策を考え仲間とともに議論して前へ進む

私は戦略を考えることがとても大好きです。本書でも、株式上場を焦るジョブズとともに、不利な条件だらけのピクサーをどう立て直していくのか、そのはざまで悩みながらも、上場へのロードマップを考えることは、容易なことではありません。

ローレンスの凄いところは、逆境を受け止めつつも常にポジティブに前へ進む明るさと胆力です。

スティーブから追加を引き出せる気はしないが、試してみるしかない。たとえ、悪名高いスティーブの怒りを買うことになっても、だ。ある晩、私は、意を決してスティーブに電話をかけた。・・・単刀直入に切り込んだ。・・・いらついているのがわかる。いまにも話を打ち切りそうだ。私は具体的な数字を提案した。このくらいならぎりぎり彼も同意するんじゃないかと思った数字だ。「それでいいんだな?」切れる寸前という感じだ。・・・「これでなんとかなります。」「わかった。この話は二度とするんじゃないぞ?」ぶつりと電話が切られた。ため息が出た。安堵のため息だ。

こうした生々しい交渉がひっきりなしに続きます。

課題を出し尽くし、それに光明を見いだせなくとも、一つ一つ悪材料をつぶしていきます。それも、ジョブズや関係する人たちとの議論や話し合いを進めながら。

こうした緊張感のあるやりとりの追体験は、きっと、ビジネスマンのコミュニケーションスキル向上に役立つと思います。

「つまり、レンダーマンで得られる多少のお金は捨てがたいが、それで成長することはできない--そういうことか?」「そのとおりです。」スティーブは納得しない。・・・「レンダーマンを売るのは止めろと言いたいのかい?」「かもしれません」ちょっとぼかした答え方にした。・・・「レンダーマンをどうしようと、成長戦略や株式公開にはまったく影響しません」スティーブは納得してくれたようだ。

そして、ローレンスたちがだした成長へのロードマップは、難しいけれどもとてもシンプルで、でもとてもリスキーというものでした。それでも、力強く前に進む姿には、どんな逆境でも道はあるのだと、勇気をもらえます。

セルフオブジェクションとしてはシリコンバレー事情を考慮

ところで本書の舞台はシリコンバレー初のコンピュータグラフィックス企業です。つまり、本書の数々のドラマティックなエピソードも、以下のことを考慮して、自分たちの環境確認やビジネスに活かしたほうが良いと思います。

  • ジョブズの圧倒的な資金援助により、当時としてかなりの高額で最高なスペックのハードウェアが揃っていた。
  • 不利な契約とはいえ、ディズニーとの契約のもとで映画は公開され、彼らの圧倒的な宣伝やマーケティングなしにはさすがにここまでの成功はなかったはず。
  • 当時はアップルを追い出されたとはいえ、ジョブズというカリスマが関わっているという人脈の引きの強さ。
  • 圧倒的な品質のコンピュータグラフィックスを、世界で最初に長編公開した、というブルーオーシャンに資源を集中できた(資源を集中させても数年は大丈夫な資金や契約があった)。

本書では多くの箇所で、電話での交渉シーンがあります。そのすべてがローレンスというわけではなく、ジョブズもかなりの回数かかわります。オーナーという立場から、ということもありますが、それでも後半、投資会社のトップをロードショー(投資家へのプレゼンで世界中をまわる)に同行させることに成功するなど、そのカリスマ性あっての成功も少なくないと思います。

その技術力の高さも、豊富な資金とカリスマの存在、精鋭クリエイターを集められたから、と言えなくもないかもしれません。

しかし、本書の魅力、さまざまな交渉事や苦難を乗り越えるストーリーを目減りさせるものにはなりません。多くは、映画への愛や、仕事への情熱、といった多くのビジネスマンにも必要と思われるエモーションが源泉だと思います。

豊富でリアルな臨場感のあるエピソードが次から次へ繰り出される展開は、読み物としてみても一級品で、買って損はしないと思います。

・ ・ ・ ・ ・

さてさて、、、心に残るエピソードをあげていったら、きりがありませんので、このくらいにしておきます。最後に、本書のアジェンダを掲げることにします。

ぜひ、多くのビジネスマンの今年最高のビジネス書の1冊として手にとって欲しい本です。おすすめです。

PIXAR ピクサー ~世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話 | ローレンス・レビー, 井口耕二

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「PIXAR ピクサー」の目次

プロローグ

第Ⅰ部 夢の始まり

第1章 運命を変えた1本の電話
第2章 事業にならないけれど魔法のような才能
第3章 ピクサー派、スティーブ・ジョブズ派
第4章 ディズニーとの契約は悲惨だった
第5章 芸術的なことをコンピューターにやらせる
第6章 エンターテイメント企業のビジネスモデル
第7章 ピクサーの文化を守る

第Ⅱ部 熱狂的な成功

第8章 「トイ・ストーリー」の高すぎる目標
第9章 いつ株式を公開するか
第10章 ピクサーの夢のようなビジョンとリスク
第11章 投資銀行の絶対王者
第12章 映画がヒットするかというリスク
第13章 「クリエイティブだとしか言いようがありません」
第14章 すばらしいストーリーと新たなテクノロジー
第15章 ディズニー以外、できなかったこと
第16章 おもちゃに命が宿った
第17章 スティーブ・ジョブズ返り咲き

第Ⅲ部 高く飛びすぎた

第18章 一発屋にならないために
第19章 ディズニーとの再交渉は今しかない
第20章 ピクサーをブランドにしなければならない
第21章 対等な契約
第22章 社員にスポットライトを
第23章 ピクサーからアップルへ
第24章 ディズニーにゆだねる
第25章 企業戦士から哲学者へ
第26章 スローダウンするとき
第27章 ピクサーの「中道」

終章 大きな変化

謝辞
訳者あとがき

関連情報リンク

PIXAR社公式コーポレートサイト。
>>ピクサーアニメーションスタジオ

翻訳者のブログ記事。
>>『PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話』: Buckeye the Translator

公開延期になると大きな損失。クリエイティブにGOサインを出す人は、ほんと重要。
>>実写「ソニック」公開延期 キャラクターデザイン変更が明言されていた – ねとらぼ

本編で、ディズニーのライバルとして登場したドリームワークス社。スピルバーグら設立。
>>DreamWorks Animation

本編を読むと、ディズニー公式サイトの下部でディズニーロゴと同じ大きさで、PIXARロゴが横に並んでいる理由もわかります。
>>ディズニー公式|Disney.jp

本ビジネス書の内容がよくまとまっています。
>>『トイ・ストーリー4』公開前に知っておきたいピクサーのインサイド・ストーリー

本書を読み、投資銀行というものがわかりました。株式公開後、あの銀行はどう思ったのでしょうね。
>>投資銀行の仕事をわかりやすく説明してみる【投資銀行業務】 – 外資系投資銀行への道標

このあたりとかほんと痛快です。
>>ピクサーの特許を侵害するマイクロソフトから金を奪いとれ!(クーリエ・ジャポン) – Yahoo!ニュース

コンテンツづくりってこうだよな、と。熱いもの必要。
>>【田中圭一連載:サイバーコネクトツー編】すべての責任はオレが取る。だから、付いてきてくれないか──男の熱意はチーム解散の危機を救い、『.hack』成功の活路を開く。業界の快男児・松山 洋に流れる血は『少年ジャンプ』色だった【若ゲのいたり】

個人的な感想

ビジネス書で、なんども涙が出たのはこの本が初めてです。どういう涙かというと「やったね、良かったね」「あー、ここでそういう言葉が出るかあ」という、琴線に触れる展開やセリフです。

電車のなかで涙腺崩壊して、なんど回りを見渡したかわかりません。それくらい、実践と感動的な展開にあふれた内容です。あと、井口耕二さんの翻訳本はベゾス本も良かったですね。なんというか、井口耕二さんの翻訳はテクノロジーもわかりやすく書かれ、テンポも良いのですよね。ほんと読みやすいです(実際には読み上げで読んだのですが)。

経営に興味のあるビジネスマンであれば、すべての人におすすめです。良い本との出会いは本当に人生を豊かにしてくれますね。ピクサー映画を見たくなります。

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