メルカリの成長とその裏側を描いたノンフィクション「メルカリ 希代のスタートアップ、野心と焦りと挑戦の5年間」を読みました。スタートアップにおいて成長を持続していくということはどういうことなのか、をビジネスマンとして知りたい人におすすめのビジネス書です。
本レビューの前提
本書は第3者がメルカリを取材しビジネス書としてまとめられたビジネス本です。また、わたしの立ち位置もご理解のうえ、こういう感想をもった、と本レビューをお読みいただけますと、読後満足度をたかめられるはずです。
「メルカリ希代のスタートアップ」がおすすめな人
- IT業界に興味がある、IT業界で働いている人
- IT業界のスタートアップや組織づくりに、仕事として興味がある人
- アプリというプロダクトをどうスケールさせていくか、という事業を大きくさせたい人
本書は、第3者が取材というかたちで、メルカリで起きたこと、当時まわりで起きたことを、事実列挙のようなかたちでつづられていきます。
ですから、仕事として、組織を大きくすることや、スピード感を持ちつつ事業をスケールさせる、具体的な経験値のトレースに興味がある人に、もっとも刺さる内容になっています。
第3者が書くことで、あまり盛らずたんたんと事実が語られていく、資料的なテイストが好きであれば、メルカリという誰もが知っているアプリですので、間違いなくハマると思います。さらに、IT業界を少しでも知っている人ならば、とくにおすすめです。きっと、SNSなどでつながっている人も出てくるかもしれません。
「メルカリ希代のスタートアップ」に過度な期待をもたないほうがいい人
いっぽうで、次のようなことを期待される人には、たぶん物足りないというか、あまり刺さらないと思いますのでご注意下さい。
- 半沢直樹や破天荒フェニックスのようなドラマチックな展開や小説を読みたいと思っている人
- スタートアップの熱い情熱や突破力を追体験し、エモーションを読後感に味わいたい人
- IT業界にあまり興味がない人
- ロマンスやヒューマンドラマや群像劇などを期待する人
- けっこう時系列が前後したりするので、そうしたスムースな読書を好まれる人
- 代表の人の生きざまやある程度の自己礼賛本としての勢いを期待している人
残念ながら、こうした熱い展開はほとんどありません。もちろん実際には、ドラマチックな運命のいたずら的な展開はなくはないのですが、それは本書ではさらっと事実として書かれる程度です。
著者の奥平さんは日経新聞社の記者さんで、多くの企業取材の記事を書かれています。そうした事実にもとづく多くの事実を資料としてつむいだメルカリの歴史、それが本書です。
ですので、自己礼賛本が苦手な人にも、口当たりはよいかと思います。
ですので、そうした前提をふまえ、メルカリのその成長の裏側を知りたい、という人におすすめのビジネス書です。
メルカリ 希代のスタートアップ、野心と焦りと挑戦の5年間 | 奥平 和行
個人的な感想のまとめ
- メルカリがなぜここまで成長できたのかがわかった
- 楽天やヤフーなどネット黎明期ではなくスマホ変革期の成長企業の裏側がわかった
- なぜメルカリが米国で成長できたのかわかった
- 個人的なおすすめ度:★★★★☆
わたしは、個人事業主で、どうやったらビジネスを成功させられるかに興味があります。また、1995年のネット黎明期からインターネットを見ていますので、その頃でない、最近のスタートアップにもかかわらずなぜここまで急成長できたのか、に興味がありました。
それを事実として理解できたので、とても良かったです。星マイナスイチは前述したように、多少読む人を選ぶからですね。またIT業界に明るくないと、出てくる人物の多さや、プロダクトの多さは、ちょっとついて行けないかなと思いましたので。
それでも逆にいえば、わたしのようにネット黎明期からIT業界にいる人は、間違いなくおすすめです。聞いたことのあるプロダクトやアプリが次々と出てきます。また、きっとSNSでつながってた!という人も出てくるはずです。そういう現場感に高揚できる人であれば、間違いなくおすすめです。
逆にいえば、メルカリの山田さん本人が書いたら、ここまで幅広く全方位でIT業界の趨勢もふくめた事実の積み上げ的な、内容にはできなかったと思います。そういう意味では、わたしには刺さりましたので、著者に感謝です。
「メルカリ希代のスタートアップ」レビュー
スピード感のある組織づくりとは
わたしは、メルカリの山田さんことは知っていました。しかし、その前職のフォト蔵のサービスを作っていたということは知りませんでした。わたしはフォト蔵を使っていましたので、とても良いサービスだったことを覚えています。
ですので、最初は「あのサービスを作った人でもそれを成功させることはできなかったんだ」と思いました。しかし、読み進めますとそのときの経験が、その後のメルカリのスピード感の源泉になったことがわかりました。
スピード感をもって成長速度を落とさないということへの、こだわりが随所に書かれていて、なるほどと思いました。
わたしはこれまでも、AmazonやSpotifyなど海外のIT企業の成長物語などを読んできましたが、やはり国内企業の成長、そして日本というお国柄も含めた奮闘など、とてもわかりやすく理解できました。
また、これは前述もしましたが、いっぽうで著者である奥平さんが事実を多面的に列挙してく書き方だからこそ、立体的に理解できたというのはあります。これをメルカリの山田さんが書いた本であれば、エモーショナルにはなるかもしれませんが、一面的な側面でしか理解はできなかったのかなと思います。
そういう意味では、次のエピソードについても、その背景や競合やビジネス環境含め、どうしてそうなったのかがとてもよくわかり、勉強になりました。
- なぜメルカリをAndroid版から出したのか
- なぜ米国で成功できたのか
- なぜ利用規約を何度も変えなければならなかったのか
- なぜサポートを仙台につくったのか
こうした取材本だからこそできる緻密な情報量が本書の最大の魅力です。
ですので、いっぽうで、前述されている(上図)登場人物や会社名などを、整理しながら丁寧に読み進め関係や状況を理解しながら読むことをおすすめします。Amazonのレビューなどでも指摘されていますが、時系列がいったりきたりする箇所もけっこうあるので、そのあたりを理解しながら読み進めませんと、IT業界にいないひとは、ちょっとこんがらがるかと思います。そこは覚悟して読んで下さい。
IT業界の著名人や有名サービスが随所に
前述もしましたが、IT業界で、しかも2000年ちょうどくらいから、ガラケーの頃あたりから、ネット界隈で働いている人には、間違いなく楽しめると思います。
フォト蔵という写真共有サービスの話や、メルカリでお札が売られてしまいいたちごっこになった話や、競合のアプリがxxxに買収されたりなど、なつかしいエピソードがたくさん盛り込まれています。
時系列が行ったり来たりする読みにくさはあれど、これこそが本書の魅力です。IT関係者であればにんまりするエピソードがてんこ盛りです。
わたしなどは、あーあのときの裏事情ってこういうことだったのね、と納得の章もいくつかありました。また知人も登場していたりして、とても懐かしく読めました。
あとは、米国での成功がとても勉強になりました。わたし自身はビジネスで成功することはありませんでしたが、国内で成功させるだけでなく米国でも成功させる、ということはこういうことなのか、と興味深く読みました。
なかなかITの本場である米国で成功する日本のIT企業は多くありませんが、それでも、こうしてやるのかと参考になりそうな企業は少なくないのではと思いました。
そして、そこからも、スタートアップやスケールするには、そういうことが大事なんだなあと腹落ちしました。
それが何かはぜひみなさんが本書を手にとって、読んでみてください。
最終的にはわたしにはとてもおもしろい本で、こうした人にはとてもおすすめできる本だと思いました。
本書を読んだ人にはさらにおすすめな本
なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか? アマゾンに勝つ! 日本企業のすごいマーケティング (光文社新書) | 田中道昭, 牛窪恵
若干あとだしじゃんけん的なところはありますが、マーケティングでセグメントを意識する話や、基礎的なところを、俯瞰して考察するとこうなる、というところに興味ある人は興味深く読めると思います。
STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか (NewsPicksパブリッシング) | 堀新一郎, 琴坂将広, 井上大智
スタートアップの事例やその体型系な俯瞰がしたい人におすすめ。とにかく事例が豊富なので、さらっと情報をたくさん読みたい人には刺さるところ多いと思います。
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「メルカリ希代のスタートアップ」レビューを書いてきましたが、ほんとファイナンスと組織づくりなんだなーと思いました。そして、もう人材は妥協するものではなく、当てはめるものなんですね。
メルカリのスタートアップの裏側を、事実の網羅性をもって読みたい人におすすめです。