YouTubeの著作権システムを悪用した事件があとを絶ちません。また、多くのプラットフォームが通報をするときリスクをおかして戦うコストを支払わなくてはなりません。本来、著作者の権利をまもる仕組みが、なぜこれほどまでに悪用されてしまうのでしょうか。
YouTubeの著作権システム Content ID
YouTubeでは、許可なく楽曲や映像や画像をつかった動画を投稿されると、権利者が収益化などをさしとめる仕組みがあります。それが、Content IDです。
また、著作権利者がみずから通報をしてさしとめることもできます。これは各動画やチャンネルにあります通報ボタンから、申告ができます。
>>Content ID の仕組み – YouTube ヘルプ
- 権利者があらかじめ自分の楽曲や動画などを登録しておけば、自動で無許可動画に対し措置をおこなえる
- 登録者が適切な登録をしていれば、次々と投稿される複製動画にも自動で対応できる
- 登録者が適切な登録や運用をしていれば、という性善説で作られている
じつは3つ目がポイントで、システム自体は、あまた投稿される違法動画を、自動で検知し対応を可能にしている反面、登録自体がそもそも違法であれば(権利者を偽って登録など)、機能不全におちいります。
そもそも労力が等価ないため、違反者は摘発されたとしても、ダメージは少ないため、またくり返せばいいだけ、となってしまうのです。
この連鎖を断ち切るため、YouTubeでは、スリーアウト方式が導入され厳罰化することで、抑止をはかりました。
>>コミュニティ ガイドラインの違反警告に関する基礎知識 – YouTube ヘルプ
90 日以内に 3 回目の違反警告を受けると、チャンネルは YouTube から永久に削除されます。
永久BANですので、二度とYouTubeでチャンネルをつくれない、という重い対応になっています。
それでもなお権利者に重い負担
では著作権管理システムの適正登録や、通報する人がただしい権利者であれば、大丈夫なのでしょうか。
じつはまだ高い壁があるのです。
>>自作絵のAmazonでの無断使用を停止させる為の手続きが理不尽極まりなく結局断念せざるを得なかった・・・ – Togetter
少なくとも「相手方に名前とメールアドレスだけ提供いただくこと」に同意する必要があるように見えます。得体の知れない悪徳業者に自分の個人情報が伝わることなど、同意できるはずがありません。
じつはYouTubeに限らず、海外の多くのプラットフォームは、第3者による通報という仕組みがほぼ実装されていません。
上記の事例のようにYouTubeやTikTok、アマゾンなど、多くのサイトでは、仲介をするだけなのです。
ですから、違反者に伝えることはします、ただしあなたも素性を明かしてね、ということなのです。
アマゾンで作品を盗作された人も、記事にありますように、通報を結局あきらめてしまいました。さぞ悔しいお気持ちだったと察します。現在でもおそらく無断転載と思われるイラストがアマゾンで掲載されている状況です。
とくにアマゾンでは、前述のYouTubeのような仕組みさえありませんから、見つけることさえ大変です。ほとんどのプラットフォームでは自分で探すしかないのが実情です。
しかし、見つけたとしてもプラットフォームは削除してくれず、素性を明かすリスクをおって通報するしかないのです。
結果として、違反者に有利な仕組みになってしまっているのです。
- いつわって権利者として登録してしまえる
- 通報したくとも、素性を明かさないと連絡がとれないという壁に守られている
残念ながら、これらのことが改善されないかぎり、権利者は自衛するしかないのが、実情なのです。
こうして記事を書いている間にも、なんと公式が削除されてしまうという事案も報じられました。
>>違法配信のせいで公式動画が削除された… 人気ラジオ番組で不可解トラブル、文化放送は困惑隠せず : J-CAST ニュース
違法サイトから著作権侵害の申し立てを3回続けてされたため、本日よりYouTubeの方に番組アーカイブのアップロードができなくなりました
しかもスリーアウトを余儀なくされるという、くやしさにじむ結末となっています。
AIによる著作権システムの誤認識が止まりません。
権利者のとれる対応
権利者がとれる対応は数が少ないのが現状です。
- 泣きねいり
- 素性を明かして戦う
- SNSで声をあげる
いずれにしても、権利者の側の負担があきらかに大きいものしかないことがわかります。
ですから、ユーチューバー界隈では事務所に入れれば、そうしたことを事務所がかわりにやってくれるかもしれません。また、テレビ番組や映画制作会社であれば、業界団体がかわりに戦ってくれるかもしれません。
しかし、個人で活動するクリエイターには、その選択肢が少ないことが問題なのです。
ですので、著作権とは異なりますが、韓国では法律で、大手プラットフォーマーに規制をかけようとする動きがではじめています。
>>韓国、アプリ上の決済義務づけ禁止 世界初、法案を可決:朝日新聞デジタル
個人名をさらして戦うということであれば、裁判費用などをクラファンなど募るという動きも出ています。
>>個人クリエイターでもクラファンで裁判資金を調達し、泣き寝入りせず戦い得るという例を示したい | リーガルファンディング
いまは、委託者もおそらくダメなプラットフォームが多いように思います。ですので、SNSで声をあげることは、問題の顕在化という点では悪いことではありません。
集合知により、こうした負の連鎖をとめることができることを願わずにはいられません。
労力の非対称性を解決できるのは何なのでしょうか。
プラットフォームができることは、ほんとうにもう無いのでしょうか。
クリエイターエコノミーに関わるすべての人の問題として、まずはもっと認知されていってほしいと思います。
わたしも微力ながらブログやSNSで発信していきたいと思います。