漫才入門という本のレビューをします。ものすごく画期的な本です。実際の漫才入門の授業を、読みやすい文体でかつ冗長にならないような文字化をし、あたかもそこで授業を受けているかのような、「圧倒的スキルアップ感を得られる」稀有なおすすめの本です。漫才をやらない人でも、トーク力を向上させたいすべての人におすすめの1冊です。
「漫才入門」は漫才の基礎を体系的に学べる
本書は、専門学校 東京アナウンス学院で実際におこなわれた特別授業を文字起こしした形で書かれています。先生の講義の部分は読み物のように、途中生徒と先生の会話形式では具体的な指南が、展開します。
- 第1回 基礎知識
- 第2回 ネタ作り
- 第3回 台本構成
- 第4回 漫才演技
- 第5回 漫才実践
第1回(第1章)が、漫才の基本的な考え方を解説しています。第2回(第2章)では、細かなボケとツッコミのテクニックを具体的に紹介されています。第3回(第3章)では全体の構成、冒頭からもり上がりにむけた全体の構成がわかりやすく解説されています。第4回(第4章)では 実際に漫才を演じるときの演技などの、表現について解説しています。
最後の回は、実際にその授業で行われた 生徒による漫才の実演ネタを、そのまま掲載しています。
すべてにおいて、先生の問いかけ→生徒が回答→先生が間違いを指摘(もしくは具体的にほめる)、という流れで書かれていますので、実際の授業に参加しているかのように、とても自然に入ってきます。
書面デザインは、ところどころ太字になり、メリハリがついていてとても読みやすいです。難しい語句には、ページ下に用語説明があるほどのサービス精神。まさに、学校の授業の教科書でもあり、実際の授業の文字起こしでもあり、「圧倒的な読書体験」ができる仕様になっています。紙の本で買う意義のあるつくりです。
本書は、2008年6月の収録なのですが、その体系立てられた理論と知識と指南は、今でも 色あせない内容になっています。
漫才入門 ウケる笑いの作り方、ぜんぶ教えます | 元祖爆笑王
著者は漫才の名だたる大会の審査員も
著者は、元祖爆笑王の高橋裕宏さん。大学に通いながら、高田文夫の弟子として放送作家の仕事もこなされたという人です。笑っていいともや、FNS27時間テレビ、めちゃイケなど、多くのテレビバラエティー番組などを手がけたそうです。
新人の登竜門、お笑いホープ大賞、漫才新人大賞では、審査員もつとめた経歴も。他の章では、講師に、松本哲也さん、大隈一郎さんという、放送作家や映像制作の第1人者が先生となり、生徒とのやり取りを進めながらも、ただしい知識へとみちびく流れが、とてもスマートです。
すぐに漫才を作りたくなる具体的指南
本書の魅力は、読んだ後にすぐに漫才がしたくなる、というぐらいの分かりやすさです。
例えば ボケのパターンについても具体的に書いてあります。言葉遊び、動きボケ、顔ボケ・・・、そしてそれらのボケについて、具体的に生徒から事例を吸いあげ、それはooボケですねなどと、その生徒の答えにも、丁寧に解説をしています。
受験の問題集でも、良い問題集は解答の解説がとても多いですよね。それと同じように、生徒の理解をすぐにチェックし間違っていれば修正する、そうした成長過程をも追体験できることにより、入門者である読者を、みちびくことに成功しています。
入門書で重要なことは、ただしく基礎を伝えること。単に情報を伝えるだけでなく、読者が犯しそうな間違った解釈を、生徒と先生の対談というかたちで、修正してくれる過程が秀逸なのです。
ですから、漫才を実際にやらないという人でもこの本を読むと、漫才に詳しくなれます。テレビのお笑い大会など、漫才を競い合うというような番組をみるときには、より深みを持って見ることができるようになるでしょう。
実際に、どう先生が生徒とやり取りをしていくのか、引用し具体的に紹介しましょう。例えば、ボケをたくさん作っていくというくだりがあります。
では、結婚の挨拶という設定で、みなさんにどんどんボケを作ってもらいましょう。思いつく人はいますか。
生徒:結婚の挨拶をする時に1番大事なところで噛んでしまう。
そうですねそれはリアルなボケです。生徒:彼氏が娘さんを僕にくださいって言うと、相手がお父さんは奥にいますっていう、実はその相手がお父さんじゃなかったっていう。
ああなるほど、お前誰だよみたいな。それはスカシボケですね。生徒:その不細工な娘さんと結婚させてください。
失礼ボケですね。
このように、実際の例と先生の解説を交えながら本文が進んでいくため、間違った理解をせずに、安心して漫才を入門できるのです。その場で、間違いも修正され、実際にその理解が正しいのかをイメージできる、これほど入門者にとってありがたい手ほどきはないのではないでしょうか。
こうした正しい基礎の徹底指導があるからこそ、教育書としても、一線を画する稀有な存在となり、刊行から10年以上たった今も、いろあせない存在になりえているのだと思います。
実際、メルカリでも中古本は売られていませんし、楽天などではもう新刊も売られていない(市場在庫が売れている)ほどです。ほんとうに凄いです。見つけたら、すぐに買われることをおすすめします。
生徒と先生がいっしょになって台本を作る様が圧巻
本書でわたしが、もっとも気に入ってる章はこちらです。あるあるから、ありそうありそうから、なしなしへ、という部分です。
ここではなんと、生徒と先生が一緒になって1つのネタを作っていくという過程を実況しています。先生が、フリ、オチ、フォロー、また「あるある」「ありそうありそう」「なしなし」、 起承転結・・・など、構成の基本をふまえつつ(これらのことは前章ですべて学べます)、結婚をテーマにしたネタを作っていくのです。
設定はこうです。ある男性が、彼女のお義父のところへ挨拶に行く、そこで「娘さんをください」という鉄板のシチュエーションで、ネタを作ります。
生徒からボケやツッコミを先生が募集します。そして、それらを添削しつつ、1つ1つ構成にあてはめていき、1つのネタを完成させます。
そのやり取りがとても勉強になるのです。
ありそうありそう、というのはあるあるとなしなしの間、あんまりないけど、でもありそうだなという 程度のファンタジーをつくるというものです。
・・・他にありそうありそうのボケを、もっと作っていきましょう。何か思いつく人はいますか。生徒:彼氏が、娘さんをくださいと言って、お父さんがお前にはやらんって言ったら、ああそうですか、と言ってしまう。
ん、それはありそうありそうですよね。 もう1つありますか。
生徒:声が裏返る。
それは、ありそうありそう、というよりもあるあるですよね。なので、順番としては、もっと最初の方に入れるか、声が裏返ると言うのはスカシボケでもあるので、後の方に入れるかです。
具体的な添削がなされていき、最終的に以下のネタが完成します。
- ツカミ
- 導入
- ボケ 1~11
- オチ
生徒とのやりとりで、みんなで11個ものボケとツッコミをつくり、全体の構成を完成させるのでした。
そして、この次の章では、すべて書き起こした実際のネタフリを、事例として6組、掲載しています。この流れも秀逸なのですよね。
前に、お手本があって、次に生徒の実際の作品が、修正無しでそのまんまで掲載される。そして、ネタに対する3人の講師の総評が書かれ、読者も納得しながら、学びを体験できるのです。基礎を理解したらあとは実践、という教育の基本がじつに見事に体現されています。これにはなるほどと思わず唸らざるを得ませんでした。
こうしてネタは出来ていくんだなと、お笑いに関心がなくとも、素直に感動します。
ぜひ、みなさんも、この華麗なる構成にふれ、そしてお笑いの世界のノウハウと、その伝え方を、読書体験してみて下さい。10年以上たったいまでも、本当に色あせていないです。
おすすめです。