老舗書店がまさかの破産手続きです。
こんにちは、書店ビジネスを追っていますカグア!です。
ついにこのシリーズでも倒産事案を扱う日が来てしまいました。都内を中心に展開していた芳林堂が自己破産です。
芳林堂書店とは
東京・池袋を中心に展開していた書店です。個人の古本店からはじまりましたが、法人としては昭和23年から営む多くのファンをもつ書店でした。
>>芳林堂書店 ※アクセス出来ません。
もっとも売上を伸ばしたときで、99年に約70億を売り上げるほどの規模だった書店です。
Twitterなども展開しており、わたしもよく通っていました。アカウントは見られる状態ですが、更新はとまっています。
>>芳林堂書店高田馬場店(@horindobaba)
>>芳林堂書店コミックプラザ(@horindocomipla)
>>芳林堂書店所沢駅ビル店(@horindoekibiru)
芳林堂書店の閉店とは
2016年2月26日に、負債20億をかかえ、破産手続き開始が報じられました。
>>大型倒産速報 | 帝国データバンク[TDB]
>>【悲報】 芳林堂書店が破産 都内駅周辺や埼玉、神奈川などに店舗を展開 : ねこ的ニュース速報
そのニュースは、業界のみならず文芸・コミックファンを驚かせました。はてなブックマークという人気ブックマークサイトでは、200件以上ものブックマークがされるほど。
>>はてなブックマーク – 株式会社芳林堂書店 破産手続き開始決定受ける|大型倒産速報 | 帝国データバンク[TDB]
新刊の入荷が止まっていた
じつは、芳林堂のホームページには、問屋変更による入荷停止状態のお詫びが掲載されていました。ファンからも心配される投稿がなされるほどでした。
■ お客様へ
現在、問屋変更にともなうトラブルの為、各店とも雑誌、書籍とも新刊・既刊の入荷が止まっており、店舗、ホームページでのご注文がお受けできない状態になっております。 手続きを急いでおりますが、復旧には今しばらく時間がかかる見込みです。受注可能になりしだいお知らせいたします。
ご不便。ご迷惑をおかけしますが宜しくお願い申し上げます。
書店は委託販売です。取次と契約をすれば、相当数の書籍を売り場に並べられてしまいます。そして返品ができる、という独特のビジネスモデルです。
それは一見、書店はリスクが無いように思えますが、今回のようにそもそも入荷ができないのであれば、もはや儲けようがありません。まさかこれまで大量の本を卸していた、生命線ともいえるところが閉ざされるとは、思わなかったでしょう。しかし、そもそも取次前提のビジネスモデルだったのです。
大手取次の廃業が続いていた
芳林堂書店が破産する前に、本を書店に流通させる、取次の破綻が連鎖していました。
>>太洋社の自主廃業に連鎖した書店の倒産・休廃業調査 : 東京商工リサーチ
・2016年2月5日、出版取次中堅の太洋社が自主廃業
・2015年6月25日、栗田出版販売が134億負債を抱え民事再生
この太洋社の大口取引先が芳林堂書店だったのです。栗田出版販売が民事再生を申請したときには、新刊入荷がとまる書店はありませんでした。
しかし、今回の芳林堂では停止したことから、その規模の大きさが伺えます。小売は売るものが無ければ成り立たないのです。
他の書店の閉店の様子です。
自家用車がひっきりなしにやってきて、常連のお客さんと思しき方が、貼り紙をじっと眺めては去っていきます。
書店の閉店は、地域に住む人々の心にも影を落とすものです。書店が提供していたのはすでに、本という単なる形だけではなかったのかもしれません。
出版不況はまだ続く
そして、出版不況にいまだ出口は見えていません。
>>出版不況 – Wikipedia
いっぽう音楽業界は再生の兆しが見えているそうです。
>>2015年の音楽配信売上は前年比108%の471億円 – ストリーミングが伸張、DLは減少 – Phile-web
ストリーミングや聴き放題(サブスクリプション)が好調だったことが要因だそうです。スマホという流れに乗れたことが大きいのかと思います。
もちろん、それでも日本は世界的に売れているほうらしく、まだまだ油断はできません。しかし、ライブやコンサートなどリアルへの誘導は増えているとの調査もあり、底打ち感があるように見えます。
>>主要国別の音楽売り上げ動向をグラフ化してみる(2015年)(最新) – ガベージニュース
>>CD不況について実際調べてみたら逆にコンサート売上がすごいことになってた。 | dir en grey sukekiyo情報サイト-私のカワイイトラとウマ
出版にはさすがにライブなどリアルイベントは難しい点があります。また、今でもまだ電子書籍の売上は紙本に遠く及びません。それはアメリカでも同様です。
そういう意味では、出版不況の底や明るい兆しは見えていないと言えるわけで、今後も芳林堂書店のような事案が出てくるのかもしれません。
芳林堂書店のターニングポイント
旗艦店である池袋本店のビルを売却した頃から、資金繰りは悪化していたのかもしれません。
こちらの記事ではアメリカで出版業界に見られる新しい兆しを紹介しています。そこで、再生の傾向がまとめられており、記事を書かれた林さんは以下のように、その兆しをまとめられています。
>>芳林堂も破産、書店閉店が止まらない日本–書店復活の米国との違いとは? – CNET Japan
・ハイパーローカル化
・コミュニティセンター化
・ブランド化
芳林堂は、これまでもイベントは、やっていました。積極的なほうだったと思います。しかしさらに文化発信の拠点とするなど、本来の他店舗販売ではなく、やはり本社ビル売却を決めたとき、じつは本社ビルだけを残し、そこに資源を集中させ、前述の3つを進めることが可能性としてはあったのかと思います。
もちろん、結果論で後からいうことはとても簡単です。2003年12月の池袋本店の閉店はわたしも良く覚えています。その頃は、まだ売上も半減まではいってなかったでしょう。そして、そのときに、本店以外を撤退して本社に集中させる、ということは判断としては、とても飛躍した判断に映るはずで難しかったとは思います。
しかし、結果的に東口で専門書を多く扱うジュンク堂、西武百貨店にあるカルチャーセンター、それらの文化発信に勝つ、ひいては出版不況という荒波を迎え撃つ、ということにおいては、本丸売却ではなく全面的に戦って欲しかったと残念に思います。芳林堂ビルが、もしかしたら西口側の文化発信拠点になっていたら・・・。西口は、繁華街こそありますが、立教大学や芸術劇場など、文化発信の土壌はあり、面白い町並みなんですよね。
>>CDレンタルショップが激減している今、ツタヤやゲオはどうしてるの? | Synapse Diary
もちろん、今回の決定打は取次停止によるものなので、本質的なリスク回避をどう避ければ良かったのかまで言及しなければフェアでないかもしれません。しかし、結果論ですがどうしても言いたくなってしまった、それくらい私自身もショックでした。
本社集中までは出来たとしても、取次を替えることは可能だったか。書籍販売以上に他の売上が伸びていれば。考えればキリがありませんが、とにかく関係者の皆様はほんとうにお疲れ様でした。そして、これまで本当にありがとうございました。
現在、芳林堂書本店の跡地ビルには、スターバックスと新生銀行が入っています。一方、スターバックスを併設するTSUTAYAは、それをフランチャイズ展開し、そこでも着実に収益を上げているのは、なんとも皮肉なことです。
書店が、もはや書籍というパッケージだけを売るのではなく、文化を売ることというところまでシフトできなければ、厳しい時代になっているのかもしれません。
私たちが必要とする情報量は、おそらく昔とそれほど変わっていないはずです。しかし、ネットの普及によりデジタルに置換できる情報は、より効率的に高速に安価に手に入るようになりました。言葉は悪いですが、立ち読みという無料コンテンツを、ネットはこれからも脅かし続けます。しかし、その流れをどう受け止め、書店に向かわせるのか、模索は続きます。
今回の太洋社の一件に関して、芳林堂以外でも全国的に閉店や事業の変更を余儀なくされる事例が10あるそうです。※東京商工リサーチ調べ
>>芳林堂書店が倒産。太洋社廃業の影響で「町の本屋さん」が続々と閉店
2月12日 友朋堂書店(茨城県つくば市)全3店を閉鎖。外商は継続
2月14日 ひょうたん書店(鹿児島市)全1店を閉鎖。通販事業は継続
2月14日 ブックランドあいむ(愛知県豊橋市)全1店を閉鎖
2月15日 精文館書店(富山市)全1店を休業、3月18日再開予定
2月20日 ブックス書泉(熊本市)全1店を閉鎖。外商や配達は継続
2月25日 Books読書人(長崎市)全1店を閉鎖
2月29日 愛書堂書店(さいたま市)1店は休業へ、今後は未定
2月29日 アミ書店(北九州市)全1店を閉鎖。外商や配達は継続
惜しむ声がネットにあふれています。ほんとうに愛されていたのですよね。
>>【出版】出版取次・大洋社の廃業で、書店が連鎖倒産・廃業 芳林堂書店やひょうたん書店など [無断転載禁止]©2ch.net
関係者の皆様、ほんとうにお疲れ様でした。
まとめ
なお、芳林堂のいくつかの店舗は、書泉が引き継ぐことが発表されています。TOP画像は、芳林堂みずほ台店の張り紙で、書泉に引き継ぐことが書かれており、その様子は普段と変わらない店内に感じました。
>>【新文化】 – 芳林堂書店、負債20億円で破産
出版大崩壊 (文春新書) | 山田 順
書店はこれからも厳しい局面が続くと見られます。各社試行錯誤が続きますが、いち書籍ファンとして見続けたいと思います。
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